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Special Talk
ホセルイス・レボルディノス氏(サンセバスティアン国際映画祭ディレクター)・ルシア・オラシレギ((サンセバスティアン国際映画祭サブディレクター))・伊藤亜由美(北海道フービーフェスティバル実行委員長)
北海道の食文化と映像を結びつける複合イベント「北海道フービーフェスティバル」。そのモデルとなったのは、「美食の町」として知られるスペイン北部のサン・セバスティアン市で開催される「サン・セバスティアン国際映画祭」です。札幌と同じ北緯43度に位置するこの都市で続く映画祭は70年以上の歴史を誇り、カンヌ、ベネチア、ベルリンに次ぐヨーロッパの重要な国際映画祭として位置付けられています。
今回、「北海道フードフィルムフェスティバル」※の開幕に合わせて来日した同映画祭ディレクターのホセルイス・レボルディノスさん、同サブディレクターのルシア・オラシレギさんを迎え、同フェスの伊藤亜由美実行委員長と食と映像を融合させることで広がる映画祭の可能性について語り合いました。
(聞き手:小西由稀/2024年11月22日収録)
※「北海道フードフィルムフェスティバル」は2025年より「北海道フービーフェスティバル」と名称変更して開催します。
Special Talk
ホセルイス・レボルディノス氏(サンセバスティアン国際映画祭ディレクター)
ルシア・オラシレギ氏(サンセバスティアン国際映画祭サブディレクター)
伊藤亜由美(HOKKAIDO FOOVIE FESTIVAL実行委員長)
構想は10年以上前から
映像と食が融合する映画祭
伊藤 ホセルイスさん、ルシアさん、ようこそ札幌にいらっしゃいました。今回、「北海道フードフィルムフェスティバル(HFFF)」のオープニングイベントに参加され、いかがでしたか?
ホセルイス 参加できてとても嬉しく思っています。5年前の「サン・セバスティアン国際映画祭(SSIFF)」で初めて伊藤さんにお会いした時は、「いつかは……」というまだ構想段階でしたが、それが実現して、素晴らしい映画祭のオープニングでした。
伊藤 私が初めてSSIFFにうかがったのは、大泉洋主演映画『そらのレストラン』がカリナリー(食に関する映画)部門に正式出品した2019年でした。現地のお客さまと一緒におなかを鳴らしながら映画を観て、作中の料理をイメージしたガラディナー※1を食べ、感想や思いを共有するというかけがえのない時間を経験しました。そして、バル街に出かけると、隣り合った者同士が乾杯をして交流を楽しむ。そんな「映画」と「食べること」が結び付いた仕組みが、本当に素晴らしいと感じました。
そんな体験をしたので、ディレクターズパーティーで思わず熱弁を振るってしまって。その写真が残っているんですよね、お恥ずかしい。
ルシア はい、私たちはそのことをしっかり覚えていますよ(笑)。
先駆者にいかに学び
より良い映画祭にするのか
ホセルイス 2024年のSSIFFで、北海道の料理人の食へのこだわりを描いた映画『北の食景』を上映でき、非常に嬉しく思っています。そして、サン・セバスティアンにあるレストランのドキュメンタリー作品『ムガリッツ』を、HFFFのオープニング作品として上映してくださったことに感謝しています。これは私たちにとって大きな前進ですね。
伊藤 2024年のSSIFFカリナリー部門の正式上映では、サン・セバスティアンのみなさんに『北の食景』が温かく迎えられ、感動しました。また、ガラディナーでは、映画に登場する4人のシェフを代表して、「ラ・サンテ」髙橋毅シェフと「味道広路」酒井弘志さんが現地で料理をつくり、映画の世界観をお客様に楽しんでいただきました。各テーブルが北海道の食とお酒で盛り上がっている光景が忘れられません。また、会場になったバスクカリナリーセンター※2の学生たちの力も借り、実現できたことも達成感がありました。
ルシア 素晴らしかったですよね。学生たちにも良い経験になったと思います。
伊藤 私たちはSSIFFに多くのことを学ばせていただきました。その体験をベースに今回の映画祭でのシネマディナーを企画。目玉企画として大変好評をいただいています。
ルシア 日程が合えば、私たちも参加したかった。残念です。
ホセルイス 映画祭関係者は、さまざまな映画祭に参加します。そして良い部分があれば、自分たちの映画祭にどういう形で取り入れられるのかを考えるものです。
他の映画祭から学ぶことがあっても、それは決して悪いことではありません。
私たちも「ベルリン国際映画祭」に影響を受け、カリナリー部門をつくりました。ベルリンでは映画上映の後に映画にまつわる夕食会を開いていて、それをそのまま取り入れました。最初の2~3年はベルリンと提携を結び、協力し合ったりもしました。
伊藤 どのような提携をされたのですか?
ホセルイス 主に情報交換です。カリナリー部門のどんな作品を観て、どんな作品に注目しているのかなど、自分たちだけで調べるよりも、お互いが調べて情報交換する方がスムーズです。あとはスペイン国内で制作されている料理関係の映画の情報も伝えたりしましたが、逆はあまりありませんでした。ドイツでは料理関係の映画がとても少ない。
そこは日本との大きな違いです。私たちのカリナリー部門では、毎年と言って良いほど日本映画を上映しています。日本の料理は多様性があって素晴らしい。食材や食品の価値も高い。日本の映画業界もたくさんの料理関係の映画を制作していますね。
伊藤 情報交換できることは多いと思いますし、連携できるととても嬉しいです。
今回HFFFでは『家族のレシピ』を上映しますが、この作品はSSIFFでも正式上映されました。舞台挨拶で登壇される主演の斎藤工さんや立花プロデューサーには、サン・セバスティアンでの思い出話もお聞きしたいと思っています。そういう話を聞いてから作品を見るのも、食に関連する映画祭らしい楽しみ方だと思っています。
食と映像を通じて
地域を盛り上げる祭典へ
伊藤 ところで、おふたりは初めての北海道だとお聞きしましたが、何かおいしいものを召し上がりましたか?
ホセルイス 昨日は函館の居酒屋をハシゴし、地酒も楽しみました。朝市ではタラバガニをいただき、北海道の食材のおいしさに感動しました。今日も札幌で地のお酒や食事をいただくのが楽しみです。
食と映像を通じて地域を盛り上げ、経済の活性化につなげるという点で、サン・セバスティアンと北海道は目指すところが同じですね。
伊藤 そう仰っていただけて嬉しいです。我々の映画祭に何かアドバイスをいただけますか?
ホセルイス 私はいろんな映画祭のディレクターを務めてきましたが、重要なことは大きく前進しなくてもいいので、後退しないこと。今の状態を維持するのはすごく大切です。そして、関わっている人の情熱が必要です。みなさんを見ていると、その辺は心配なさそうですね。
伊藤 ありがとうございます。将来的には、世界の作品や監督を招くことができる映画祭に成長できたらという思いもあります。
ホセルイス 海外からゲストを招くと映画祭が盛り上がりますし、大事なことですが、問題はやはり予算ですね。幸いなことに、海外の映画関係者の多くは日本に行きたがっています。都合が合えば誰でも来ると思いますよ。
伊藤 それは日本のブランド力でしょうか?
ホセルイス 日本には文化や歴史など、欧米とは大きく異なる魅力があるからです。イマジネーションが刺激されますし、そういう体験がしたくて、多くの人が行きたいと思うのではないでしょうか。
伊藤 確かに、そうかもしれないですね。私はサン・スバスティアンが大好きなので、また現地にもうかがいたいと思っています。
ホセルイス はい、ぜひお待ちしています。そして情報交換など、連携を深めていきたいですね。今後いろんな提案ができたらと思っています。
伊藤 はい、ぜひ!この度はありがとうございました。
2025年の北海道フービーフェスティバルでは、サン・セバスティアン国際映画祭との連携作品として「TETSU,TXISPA,HOSHI.」の上映が決定しています。バスク地方でアサドールのレストランを経営している日本人シェフ・前田哲郎氏に迫るドキュメンタリー作品です。今後の両映画祭の取り組みにどうぞご注目ください。
※1 美食の町の特色を生かし、サン・セバスティアン国際映画祭のカリナリー部門を設け、上映作品にちなんだ特別なガラディナーが開かれるのが大きな特徴。このチケットはすぐに完売するなど、名物コンテンツになっている。
※2 料理で学位が取れる4年制の料理専門大学。調理技術だけでなく、食の科学、農業、経営などを体系的に学べ、食領域の専門家を育成。学内にはレストランがあり、ガラディナーの会場となるほか、学生がガラディナーの調理やサービスを手伝っている。